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東京地方裁判所 平成11年(ワ)6923号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 宮道佳男

同 高木正紀

同 新信聡

原告 株式会社X出版

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 宮道佳男

同 新信聡

被告 社団法人日本美容医療協会

右代表者理事 C

被告 D

被告 E

被告 F

右四名訴訟代理人弁護士 渡部喜十郎

同 塩川治郎

同 戸井川岩夫

主文

一  被告らは、原告Aに対し、連帯して、金八〇万円及びこれに対する被告Dは平成一一年四月一二日から、被告Eは平成一一年四月一一日から、被告社団法人日本美容医療協会及び被告Fは平成一一年四月一三日から支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  原告Aのその余の請求及び原告株式会社X出版の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二〇分し、その一九を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、連帯して、原告Aに対し、金一一〇〇万円及びこれに対する被告Dは平成一一年四月一二日から、被告Eは平成一一年四月一一日から、被告社団法人日本美容医療協会及び被告Fは平成一一年四月一三日から支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告株式会社X出版に対し、金一一〇〇万円及びこれに対する被告Dは平成一一年四月一二日から、被告Eは平成一一年四月一一日から、被告社団法人日本美容医療協会及び被告Fは平成一一年四月一三日から支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、連名で別紙マスコミ七社目録記載<省略>の各社に対し、それぞれ別紙記載の謝罪文<省略>を交付せよ。

第二事案の概要

本件は、医師である原告Aが一年間の医業停止処分を受けていた期間中に、原告株式会社X出版等を通じてその著書及びビデオに関する広告を新聞、雑誌等に掲載していたことに関し、被告社団法人日本美容医療協会の代理人で弁護士である被告Dら三名が、右広告を掲載していたマスコミ各社に対し、右広告は医業広告を規制する医療法に違反するおそれが高いので原告Aの氏名、写真を含む広告を掲載しないよう厳重に通知する旨の内容証明郵便を送付したことについて、原告Aが、名誉毀損、プライバシー侵害及び出版妨害を主張し、原告X出版が、信用毀損及び出版妨害を主張して、それぞれ被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償及び名誉毀損、信用毀損について謝罪文の交付を請求している事案である。

一  前提となる事実等(証拠を掲記した事実以外は、当事者間に争いがない。)

1  原告A(以下「原告A」という。)は、昭和五一年ころ美容外科「Aクリニック」を開業し、全国数箇所でAクリニックを経営する医師であり(甲第三〇号証、原告A本人)、原告株式会社X出版(以下「原告X出版」という。)は、書籍、雑誌等の出版及び販売等を目的とする株式会社である。

被告社団法人日本美容医療協会(以下「被告協会」という。)は、美容医療の普及啓発活動をすること等を目的とする社団法人であり、医師等がその構成員である(但し、原告Aは加入していない。)。被告D、同E、同Fはいずれも弁護士である。

2  原告Aは、Aクリニックを開業したころから著作活動を始め、原告X出版を含む出版元から、美容外科、健康学に関する著作やエッセイ等合計二八冊の書籍を出版し、また、美容整形に関するビデオの監修等を行っている(甲第三〇号証、原告A本人)。

3  原告Aは、平成九年に所得税法違反(脱税)で罰金刑に処せられたことにより、平成一〇年一一月三〇日、医師法七条に基づき、厚生省から医業停止一年間の行政処分を受けた。

4  訴外株式会社主婦と生活社、株式会社光文社、株式会社小学館、株式会社徳間書店、株式会社主婦の友社、株式会社マガジンハウス、株式会社朝日新聞社(以下まとめて「本件マスコミ七社」という。)は、原告Aの医業停止処分期間中である平成一〇年末ころから平成一一年初めころにかけて、その発行にかかる新聞、雑誌等に原告Aの書籍やビデオの広告を掲載した(以下「本件広告」という。)。

5  被告協会は、平成一一年三月一日付で、被告D、同E、同Fを代理人として、以下の内容を含む本件マスコミ七社連名宛の内容証明郵便(甲第二号証。以下「本件通知」という。)を、本件マスコミ七社に送付した。

「貴社らは、その発行にかかる新聞、雑誌にAクリニック院長であるA氏作成にかかわるビデオ、書籍の広告を掲載しておられます。そして、右広告中には、A氏の氏名が院長ないし医学博士等の肩書とともに使用されたり、A氏の写真が掲載されています。

しかし、A氏は、脱税により医師法第七条に基づいて、厚生大臣より平成一〇年一一月三〇日から同一一年一一月二九日まで医業停止処分を受けており、右期間中、一切の医療行為をすることが禁止されていることはご承知のとおりです。

このように医療行為禁止中の医師の氏名ないし写真を含む広告を掲載することは、社会的責任を負う貴社らとしては自粛すべきであり、管轄の厚生省健康政策局総務課からも、右広告は、医療法第六九条第一項の規定に反し、さらに、A氏があたかも、現在もAクリニックにおいて医療行為に従事しているとの誤った印象を読者に与えかねないとして、同条第五項の虚偽広告にあたるおそれも高いとの指摘を受けております。

そこで、当職らは、貴社らに対して、今後A氏の氏名ないし写真を含む広告を掲載しないよう厳重に通知いたします。

通知人のこの通知にかかわらず、今後とも同様の広告の掲載をされる場合には、広告の掲載の中止を求める法的手続を措らざるをえません。」

なお、同日、被告協会は、原告Aに対しても、本件通知と同様の内容の内容証明郵便を送付した。

6  医療法六九条一項は、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関しては、文書その他いかなる方法によるを問わず、何人も次に掲げる事項を除くほか、これを広告してはならない。」と規定し、同項五号は、広告が許される事項として「常時診療に従事する医師又は歯科医師の氏名」を掲げている。また、同条五項は、「第一項各号に掲げる事項を広告する場合においても、その内容が虚偽にわたり、又はその方法若しくは内容が第二項に規定する基準に違反してはならない。」と規定している。

二  争点

1  本件通知は、原告らの名誉、信用を毀損するものであるか否か。被告らに違法性阻却の抗弁が認められるか。

2  本件通知は、原告Aのプライバシーを侵害するものであるか否か。

3  本件通知は、原告らの出版の自由(出版活動)を違法に妨害するものであるか否か。

4  右1ないし3が認められるとした場合に、その損害額はいくらか。

三  当事者の主張

1  争点1について

(一) 原告らの主張

(1)  本件通知は、原告Aが、厚生省から本件広告について氏名、写真の掲載を中止するようにとの指導を受けたのに、これに従わず、医療法六九条一項及び同条五項に違反する広告の掲載をしているという事実を摘示したものである。

また、原告X出版については、右原告Aと同様、厚生省の指導に従わず、違法な出版を手がけているという事実及び所得税法違反(脱税)の前科のある者の出版を手がけているという事実を摘示したものである。なお、原告X出版の名は直接本件通知には記載されていないが、本件広告に出版社名が記載されていることから、本件マスコミ七社は、原告Aの著作の出版社が原告X出版であることを容易に知ることができた。

右の各摘示事実は、原告A及び原告X出版の社会的評価を低下させるものであり、名誉、信用毀損に当たる事実の摘示である。

(2) 被告らの違法性阻却の抗弁については争う。

本件広告は、いずれも原告Aの著作等にかかる出版広告であり、医業広告ではないから、医療法違反の問題は生じない。そもそも医業停止処分は、医師の診療行為を制限するだけであって医師や医学博士の資格を剥奪するものではなく、また、原告AがAクリニックにおいて代診の医師を雇用し、院長として経営に当たることを制限するものではないから、広告中に院長や医師等の肩書きが記載されていることは、医療法六九条一項、五項違反ではない。

したがって、右の各点において本件通知が摘示した事実は真実ではなく、本件通知の送付について違法性は阻却されない。

(3)  以上によれば、被告協会は、被告Dら弁護士に依頼して本件通知を交付したことにより、原告らの名誉、信用を毀損したものである。よって、被告協会は、不法行為(民法七〇九条)に基づき、原告らに対し、損害賠償責任を負う。

被告D、同E、同Fは、法律の専門家であるにもかかわらず、原告らの名誉、信用を毀損する内容の本件通知を送付したことにより、被告協会と連帯して不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

また、右名誉、信用毀損については、別紙謝罪文記載のとおりの謝罪文を本件マスコミ七社に送付すべきである。

(二) 被告らの主張

(1)  本件通知は、厚生省が、本件広告について、医業広告を規制した医療法六九条一項に違反し、また、同条五項に違反するおそれが高いとの指摘をしているということを摘示したものであって、原告らが主張するように、厚生省が原告らに対し本件広告に関して何らかの指摘をしたことや原告らが厚生省の指導に従っていないとの事実までを摘示したものではない。

(2)  本件通知の内容について名誉毀損性が認められるとしても、被告らが本件通知において摘示した事実は、以下に述べるとおり、真実である。

(イ) 被告協会は、国民に対する適正な美容医療を提供し、違反広告による社会的偏見の是正を図るための活動を行っているところ、平成一〇年末ころ、原告Aが、医業停止処分期間中であるにもかかわらず、その著作、ビデオの広告に名を借りて実質的に医業広告に当たる広告を掲載していたことから、それらの広告が医療法に違反するのではないかという疑問を持った。

被告協会は、平成一一年二月ころ、事務局長や弁護士を通じて、厚生省に問い合わせたところ、厚生省健康政策局総務課は、医業広告に当たるか否かは実質的に判断すべきであること、医業停止処分中の者は医療法六九条一項五号に規定する「常時診療に従事する医師」とはいえないので、医師であってもその名前を出して医業広告をすることはできないこと、院長という名称は、現在もそのクリニックの管理者をしているとのイメージを与えるので、医業停止処分中の者を院長として広告に記載することは、虚偽広告を禁止した医療法六九条五項にも違反するおそれが高いことなどを回答した。

(ロ) 本件広告は、書籍、ビデオの広告の形態をとっているものの、その内容は、原告Aの行う美容整形手術の内容、効果やAクリニックの名称、所在地、診療受付のフリーダイヤルが記載されており、患者をAクリニックに誘引する目的を持って記載されていることは明らかである。このような広告は医業広告に当たり、厚生省の指摘のとおり、医業停止処分期間中に掲載されていた広告は医療法六九条一項、五項に違反するものである。

右によれば、被告らが本件通知において摘示した事実は真実であって、かつ、被告らが本件通知を送付した目的は、違反広告による社会的偏見の是正を図る等の公益目的であり、公共性も認められるから、その違法性は阻却されるべきである。

2  争点2について

(一) 原告Aの主張

本件通知は、原告Aが所得税法違反(脱税)により一年間の医業停止処分を受けたことについて、未だこれを知らない者に対してまでみだりに公表したものであり、これによって原告Aのプライバシーが侵害された。

よって、被告らは、原告Aに対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

(二) 被告らの主張

(イ) 原告Aが常時診療に従事しているかの如き印象を与える広告が掲載されている場合において、同人が医業停止処分中であり、医療行為に従事できない状態であるということは、一般国民にとって重要な情報であり、また、原告Aが脱税により一年間の医業停止処分を受けたという事実は、本件通知が送付される前に既にマスコミによって報道されていたのであるから、そのような事実は保護されるべきプライバシーには当たらない。

(ロ) 仮にそうでないとしても、被告らは、原告Aが現に医業停止処分中に、その停止処分との関係において医療法違反が問題となる広告を掲載していたことについて、その是正を求めるために、原告Aが医業停止処分を受けたことを公表したに過ぎないから、違法性はない。

3  争点3について

(一) 原告らの主張

(1)  本件通知は、本件マスコミ七社に対して、原告Aの書籍、ビデオの広告から原告Aの氏名、写真の掲載の禁止を求めるものであるが、著者の氏名のない書籍広告では書籍が売れるはずがないから、本件通知は、原告らの出版の自由を侵害し、出版活動を妨害するものである。

なお、本件広告は医業広告ではないから、被告らが原告Aの氏名等の掲載禁止を求めることはそもそも理由がないが、仮に、本件広告中に医業広告に当たるものがあるとしても、その限度で、その原因となる文言の削除を求めれば足りることであり、本件広告の全てを問題とし、一律に原告Aの氏名、写真の掲載の禁止を求めることは、違法な出版妨害であるというべきである。

(2)  このため、原告らは、本件マスコミ七社との間で、従前どおりの広告を掲載するよう交渉を重ねる労力を強いられ、結局、原告らは、その後のマスコミとの円満な関係の継続を危惧したことなどから、原告Aの著作に関する広告掲載の発注を従前の半分程度に減少させた。

また、訴外株式会社マガジンプランニングが発注していた雑誌掲載分の書籍広告について、原告Aは、原告Aの氏名及び「医学博士」や「Aクリニック院長」の肩書を削除することを強いられた。

さらに、原告Aは、本件通知の送付によって、著作活動に対する意欲を喪失し、平成一一年は新作を出版することができなかった。

右のとおり本件通知が交付されたことによって、原告Aは多大な精神的損害を被り、また、原告らは、平成一一年三月以降、原告X出版が出版元となっている原告Aの著作について、その出版冊数が減少し、著作の売上が激減したことによる財産的損害を被った。

(3)  したがって、被告らは、不法行為に基づき、原告らに対して損害の賠償をする義務がある。

(二) 被告らの主張

(1)  本件広告は、いずれも実質的な医業広告に当たり、医療法違反が問題となるものである。被告らは、原告らの違法な医業広告を是正するために本件通知を送付したのであって、それは正当な行為と評価されるべきであるから、不法行為が成立する余地はない。

(2)  仮に、本件広告中に、実質的に医業広告に当たらないものがあったとしても、本件通知は、原告Aが掲載する広告を無限定に問題としたものではなく、本件広告のうち、実質的な医業広告に当たるもののみをその対象としたものであることは明らかである。そして、本件通知の文脈及び被告協会が医療法に違反する広告を規制するための活動をしてきた経緯等から、本件マスコミ七社も容易にそのことを認識できる状況にあった。

したがって、本件通知によって、実質的に医業広告に当たらない出版広告までも掲載の中止を求めたことにはならないから、右(1) で述べたとおり被告らの行為には違法性がない。

4  争点4について

(一) 原告らの主張

原告らが本件通知の送付によって被った損害額は、それぞれ一〇〇〇万円を下らない。また、本件の弁護士費用は、原告らそれぞれについて一〇〇万円が相当である。

よって、原告らはそれぞれ、被告らに対し、連帯して一一〇〇円の支払を求める。

(二) 被告らの主張

原告らが被告らの行為によってそれぞれ一〇〇〇万円の損害を被ったこと及び被告らの行為と損害との因果関係についていずれも否認する。

第三争点に対する判断

一  前記前提となる事実等と証拠(甲第一ないし第五号証、第二三ないし第三〇号証、第三二ないし第三四号証、乙第一ないし一〇号証、第一二ないし第一九号証〔いずれも枝番を含む。〕及び証人H、同遠藤賢治の各証言、原告A、同X出版代表者Bの各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  日本には、「日本美容外科学会」と称する団体が二つあり、それぞれ、「十仁学会」、「大森学会」などと俗称されていた。原告Aは、いわゆる十仁学会に所属し、同会の会長を歴任している。

被告協会は、大森学会所属の医師を中心として、平成三年四月二〇日、厚生大臣から法人設立許可を受けて設立されたものである。

被告協会は、その活動の一貫として、平成六年一二月二〇日、被告協会の会員に対する自主規制として「美容医療に関わる広告、記事等における自主規制コード」(乙第六号証)を作成するとともに、雑誌社、出版社及び医療法に反する広告をしている美容外科医師に対し、右自主規制コードに従い、医療法違反の広告を行わないよう通知書を出すなどの活動を行っている。

2  原告Aの著作については、前記前提となる事実4記載のとおり新聞、雑誌に広告が掲載されているが、本件広告の内容は、多種多様であり、次のようなものがある。

(一) 朝日新聞に掲載されたものは、原告Aが原告X出版から出版した「ドクターAの頭髪革命」ほか三冊の書籍の広告であり、原告X出版の名称、電話番号のほか、「ドクターAの頭髪革命」「医療生毛植毛でらくにハゲを治す本 四六判 本体一二〇〇円(送料三一〇円)」「医学博士A、医師K共著」、「日本初!高速生毛植毛機の威力 あなたのハゲは短期間で治せます」「重大な時間と費用を要した生毛植毛に革命的な技術が登場。九割以上の生着率。しかも二度とハゲにくい最新医療植毛とは・・・」「本書の主な内容(目次より)」などの記載がある。この広告中には、「Aクリニック院長」や、「Aクリニック」などの記載はない(甲第四号証の八)。

(二) 雑誌に掲載された書籍広告は、右と同様の表示によるものもあるが、一部に、著者名が「Aクリニック医学博士A」とされ、問い合わせ先として「Aクリニック」の名称と電話番号が記載されたものがある(甲第四号証の一三、一七)。

(三) ビデオの広告(乙第三号証の三ないし九、第四号証の一ないし四)は、すべて雑誌に掲載されたものであるが、監修者名を、「Aクリニック、A、K、Aクリニックドクターチーム」とし、問い合わせ先としてAクリニックの名称及び電話番号を記載しているものが多い。また、Aクリニックの医業広告とビデオの広告が左右の見開きの頁にそれぞれ記載されているものもある(乙第三号証の四)。

3  平成一〇年末ころ、被告協会において、原告Aが医業停止処分期間中に同人の著作、ビデオに関する広告を行っていることについて、医療法に違反する広告なのではないかということが問題とされた。平成一一年二月半ばころ、被告協会の事務局長であるG(以下「G事務局長」という。)が、厚生省健康政策局総務課を訪問し、H事務官(以下「H事務官」という。)に対し、本件広告の一部を示した上で、原告Aが医業停止処分期間中にもかかわらず、書籍、ビデオの広告に名を借りた医業広告をしているが、医療法違反にならないか問い合わせた。H事務官は、個別の広告毎に医業広告に当たるか否かの有権解釈は示せないとしながら、G事務局長から示された本件広告を見た上で、一般論として、医業停止処分中の者は医業広告はできないこと、出版広告であっても医業広告に当たり医療法六九条に抵触する場合があり得ること、本件広告の中には、医療機関の名前と出版広告が密接に関連しており、医療法六九条違反のおそれがあるものがあること、医業停止処分中の者に院長の肩書を付することはふさわしくないことなどを答えた。

そこで、G事務局長は、被告協会の理事であるI(以下「I理事」という。)に報告し、I理事は、同月二二日、被告協会の顧問弁護士である被告Dの事務所を訪れ、原告A及び本件広告を掲載した雑誌等の出版社に対し、広告の掲載を中止するよう通知書を出して欲しい旨依頼した。

4  同年二月二四日、被告Dの事務所に所属する遠藤賢治弁護士(以下「遠藤弁護士」という。)は、厚生省からの回答内容を確認するために、H事務官に電話した上、医業停止期間中の医師が医業広告を掲載することが可能かどうか及び出版広告と医業広告との関係等について問い合わせた。

H事務官は、同月二五日、右遠藤弁護士の問い合わせに対して、医業停止処分期間中の医師については、医療法六九条一項が規定する常時診療に従事する医師ではないことから、氏名を出して医業広告を掲載することはできない、広告中に院長の肩書を付すことは、一般的に医療機関の管理者を指すものなのでふさわしくないし、医療法六九条五項の虚偽広告に当たるおそれもある、また、一般論として、出版広告の形態を取った広告であっても、医業広告か否かは実質的に判断するので、医業広告に当たり、医療法違反となる場合があるなどと回答した。

5  遠藤弁護士は、右H事務官の回答内容を踏まえた上で、本件マスコミ七社宛と原告A宛にほぼ同様の内容で内容証明郵便を作成した。そして、被告D及びI理事、G事務局長がその内容を確認した上で、平成一一年三月一日付で、それぞれ本件マスコミ七社と原告Aに対し、内容証明郵便が送付された。

6  本件通知が送付された後、本件マスコミ七社のうち、株式会社朝日新聞社については、原告X出版の代表取締役であるB(以下「B」という。)が、株式会社朝日新聞社の担当者との間で、従来の広告の記載内容どおりの広告掲載を継続のための交渉を行い、本件通知の送付後も、従来と同様の形態の広告が掲載された。

しかし、広告代理店である訴外マガジンプランニング株式会社を通して広告掲載が依頼されていた各雑誌社については、本件通知が送付されて以降、原告らが従来どおりの広告の掲載を申し入れたものの、これに応じてもらえず、「ドクターAの頭髪革命」と題する書籍の広告に関しては、従前は、書籍名を「ドクターAの頭髪革命」、著者名を「医学博士A」と記載していたものを、書籍名を「頭髪革命」とし、著者名を全面削除するなどの変更を余儀なくされたものがあった。

このため、原告Aは執筆意欲を喪失し、平成一一年度は、新作を一冊も出版することができなかった。

また、原告らは、本件通知が送付されたことにより、広告の掲載について本件マスコミ各社との交渉を行った過程において、マスコミ各社との関係が悪化することをおそれ、一時広告の依頼数を減少させるなどした。

二  争点1について

1  原告らは、本件通知は、原告らが厚生省から指摘を受けたのにこれに従わず、医療法六九条一項、五項に違反する広告を掲載していることを摘示したものであると主張する。

しかしながら、本件通知は、その内容に照らせば、厚生省が被告協会に対し、本件広告は、医療法六九条一項の規定に反し、さらに、同条五項の虚偽広告にあたるおそれが高いと指摘しているとの事実を摘示したものにとどまり、厚生省が直接原告Aに対して指摘したこと及び原告Aがこれに従わなかったことまでを摘示したものではない。

2  右摘示事実については、それが原告らの社会的評価を低下させるものであったとしても、前記一の3、4によれば、厚生省健康政策局総務課のH事務官が、概ねこれに沿う内容の回答をしたことが認められることから、その真実性を認めることができる(もっとも、H事務官は、本件広告の一部について医療法六九条違反のおそれがあると回答したにすぎないこと、「医学博士」という肩書については問題としていないことなどに照らすと、H事務官の回答と本件通知の記載には一部齟齬があるが、なお主要部分において真実であると認められる。)。

3  そして、美容医療に関する広告の内容は、一般国民にとって重要な事項であることからすれば、本件通知を送付したことについての公共性、公益目的は肯定されるというべきである。

4  なお、原告X出版について、脱税の前科のある者の出版を手がけているという事実を摘示したという点については、本件通知が直接そのような事実を摘示したものではない上、それ自体原告X出版の社会的評価を下げる事実ではないから、そもそも名誉毀損には当たらないというべきである。

したがって、争点1に関する原告らの主張は認めることができない。

三  争点2について

1  一般に、ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して公表することはその者のプライバシーの侵害行為に当たり得るが、公表の目的、その者の社会的活動や影響力、公表した時期等に照らして、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するとはいえない場合には、公表によってその者が被った精神的苦痛の賠償を求めることはできないというべきである。

2  右を前提に、被告らが本件通知において原告Aが所得税法違反(脱税)により、医業停止処分を受けた事実を表示したことが、原告Aのプライバシーの侵害行為に当たるかどうか検討する。

証拠(乙第一九号証の一ないし四、原告A本人尋問の結果)によれば、原告Aが所得税法違反(脱税)により罰金刑を受けたこと及び医業停止処分を受けたことについては、既に新聞等で報道されていたことが認められ、本件マスコミ七社は、その業務の性質上右事実を知っていたと推認される。

そして、被告らが本件通知を送付した時期は、まさに原告Aの医業停止処分期間中であること、本件通知は、医療法違反の広告の是正という公益性のある事柄を問題とする前提として、右処分等の事実を表示したにすぎず、その通知先も本件マスコミ七社に限定されていることなどに照らせば、原告Aについて医業停止処分を受けたことを公表されない法的利益が、これを公表する理由に優越するとまではいえない。

右によれば、原告Aについてプライバシーを侵害された旨の主張は、これを認めることができない。

四  争点3について

1  本件通知は、本件広告を掲載している本件マスコミ七社に対して、広告中から原告Aの氏名、写真を削除するように求め、これに従わない場合は法的手段を取ると警告しているところ、著者の氏名の記載のない書籍の広告が購買の誘引としての効果が弱いことは明らかであり、右通知は、原告らの書籍等の出版活動の妨げになることは明らかである。

被告らは、本件通知は、実質的に医業広告に当たるものについてのみその是正を求めたものであって、正当な行為であると主張する。

たしかに、本件広告中には、ビデオの広告とAクリニックの医業広告とが見開き頁の左右に掲載されているものや、書籍、ビデオの広告中に内容の問い合わせ先としてAクリニックを表示しているものなどがあり、これらについては、その本文の内容やAクリニックの表示方法等如何によっては、Aクリニックにおける診療を誘引するための医業広告としての性質を併有するものとみられる場合もあり得る。その場合に、原告Aの氏名を記載することは、肩書や表現の方法如何によっては、原告AがAクリニックにおいて医療に従事しているとの誤解を招くおそれがないとはいえない。

また、右のような医業広告に当たらない場合であっても、原告Aに「Aクリニック院長」という肩書を付することは、原告AがAクリニックにおいて医療に従事しているとの誤解を招くおそれがないとはいえず、適当でないとの評価もあり得よう。

したがって、被告らが、本件広告中の医業広告の実質を有する可能性のある広告ないし問題となる肩書表現を抽出して、その是正を求める(Aクリニックの表示の削除を求めたり、院長の肩書の削除を求める)ことは、違法であるとはいえない。

しかし、本件通知は、医業広告に当たらないことが明らかなものも含めて、本件広告全般について、原告Aの氏名及び写真の掲載の一律禁止を求めるものである。このことは、その文意に照らしても明らかであるし、朝日新聞社掲載の広告は、医業広告の実質はなく、問題となる表現もないのに、朝日新聞社に対しても氏名、写真の掲載の禁止を要求していることからも明らかである。

また、医業広告の実質を有するものについても、見開き頁の同時掲載を止めるなり、Aクリニックの表示を削除するなどの方法で是正を求めれば足りるものであるのに、ことさら氏名、写真の掲載の禁止を求めたことは、過大な要求であり、違法であるといわざるを得ない。

したがって、本件通知は、以上の点において違法であるというべきである。

2  そして、前記一の6記載のとおり、原告Aは本件通知の送付によって、本件マスコミ各社との間の交渉を余儀なくされ、一部の書籍広告については、著者名の掲載を断念せざるを得なかったこと、さらには執筆意欲を喪失し、新作を出版することができなかったことなどの点で精神的損害を被ったものということができる。

しかしながら、原告らが主張するその余の点(出版妨害による原告らの財産的損害)については、本件全証拠を精査しても、未だ原告らが被った損害額及び本件通知と損害との因果関係を認めるに足りる証拠がなく、これを認めることはできない(原告X出版については、朝日新聞社との広告継続交渉を余儀なくされたこと、原告X出版発行の「ドクターAの頭髪革命」は、平成一一年五月以降売上部数が若干減少したことが認められるが、部数減については他の要因も考えられるので、因果関係及び損害額のいずれについても認定困難である。)。

五  争点4について

右四によれば、原告Aについて、被告らの不法行為による精神的損害を認めることができるところ、本件に現れた一切の事情を考慮すれば、右精神的損害を慰謝する金額として金七〇万円及び本訴訟を提起し追行するに必要となった弁護士費用として金一〇万円が右不法行為と因果関係のある損害と認められる。

したがって、被告らは、原告Aに対し、連帯して、金八〇万円及び不法行為の後の日である被告Dについては平成一一年四月一二日から、被告Eについては同月一一日から、被告協会及び被告Fについては同月一三日から、それぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

第四結論

よって、原告らの被告らに対する請求は、原告Aについて主文第一項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余の原告らの請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条、六五条を適用して、主文のとおり判決する(なお、仮執行宣言の申立については、その必要がないものと認めこれを却下する。)。

(裁判長裁判官 瀧澤泉 裁判官 澤田正彦 裁判官 加本牧子)

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